信州お薦めスポット #12

「峠の釜めし」横川駅近く、坂本宿から碓氷峠

六月になろうとする炎天の日、北に一直線の道は坂本宿を越えてから、徐々に傾斜を増した。長野新幹線開通後に廃線となった信越線は遊歩道となっていた。
二つほどそのトンネルを潜ると、信濃に入る群馬・長野両県境碓氷峠への旧中山道が国道沿いに現れた。日本橋からの中山道は国道沿いや歩道を繰り返して来たが、ここに着て初めての山道である。

この街道ではその地その地で、オラの村の峠が「中山道唯一の難所」と難所自慢に出会う。峠は江戸日本橋から順に「碓氷峠」「和田峠」「塩尻峠」「鳥居峠」と、いずれも信濃路にある。とにかく歩いて体験しないことには始まらない。前回の冬雪道とは異なり、季節は絶好の梅雨前、新緑中山道、快適の巻である。

難所碓氷峠の前後に坂本宿と軽井沢宿が置かれた。両宿場間の距離は2里26町(10km余)であるが、峠頂部の熊野神社の標高が1200m、坂本宿の標高460mであるから、その差は740mもあり通行者の大きな負担になった。特に刎石(はねいし)はつづら折れの急坂のうえ落石も多く、峠道最大の難所で追い剥ぎが出るとされた。

坂本から熊野神社までの旧中山道ルートは、日本の道100選のひとつとして1986年(昭和61年)に選定された歩き専用道。刎石の急登以外はなだらかで日差しを遮る緑のトンネル付き、おまけにフカフカ落ち葉のたい積道で歩きよい。
西条八十作『ぼくの帽子』、それをモチーフにした森村誠一の『人間の証明』の冒頭シーン、音と映像が浮かぶ。

母さん、僕のあの帽子、どうしたでせうね?ええ、夏碓井から霧積へ行くみちで、渓谷へ落としたあの麦稈帽子ですよ。
母さん、あれは好きな帽子でしたよ。僕はあのとき、ずいぶんくやしかった。だけど、いきなり風が吹いてきたもんだから。
母さん、あのとき、向うから若い薬売が来ましたっけね。紺の脚絆に手甲をした。

信州への中山道 歩きはじめ

晩秋の光と影

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